「目は覚めた?」
「悪い夢を見ていただけだよ、きっと」
懐かしい声、かたち。
横たわる体を覗き込むその顔は、何度も思い描いたそれそのもの。
頬に触れる手は冷たかった。
「だいじょうぶ」
「何も苦しいことなんてないんだよ」
「カミサマが、いるから」
ずっと、ずぅっと探していたのに。
忘れていたのに。
思い出してしまう。
□□は、カミサマを、あいしてて、
□□は。カミサマに愛されてる。
カミサマに愛されなかったのは、
「大丈夫、すべてよくなるよ」
向けられる笑みも声も。差し伸べられる手も。
カミサマの。カミサマが造ったこの世界のものだと、いつか、そう言っていた。
「ここはあたたかくて、あかるいから」
「……そんなものは、望んでない」
欲しかったのはそんなものじゃない。ただ目の前の、存在ひとつだけ。
か細い手首。掴んだその体はすり抜けることも霧のように散ることもなかった。
「いたい、ね」
そう言いながら振り払うこともせず笑みを浮かべていた。
そんなところが、
嫌いだった。
誰にも、きっと、
そう言う。
それが途方もなく嫌いだった。
「だいじょうぶ」
「キミの痛いのはぜんぶ、ぼくがもらうからね」
力が抜けてしまう。
離れた手首には手のあとが、真っ白いはだに赤く咲いていた。
「だから、ね。カミサマのためにうたを唄いましょう」
「みんながずぅっとしあわせでいられるように」
今度こそ手を離さないように生白い首に手を。
ああ、これだから賛美歌は嫌いなんだ。
目が覚めたらまた全部忘れてしまうから。
それまで、最後の息の音を。
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