頁外1.嘘をついていい日

※エイプリルフールネタ、眷属化後のいつかの時空

「今日は嘘を吐いてもいい日なんだって」

にこにこしながら唐突に言い出す咲々牙。よくあることだ。それでいきなり買い物に行ったり、星を見に行ったり色々付き合わされる。そうやって強引に付き合わされるのも好きなんだけど。

「……嘘ならいつもついてるだろ」
「ええ? そんなことないよ?」

無自覚なのか? 昔は何とかかんとかをしてると夜に悪い人が来てさらわれちゃうとか子供を躾けるような迷信じみたことをよく言っていたし、今も胡散臭いことばっかり言うじゃないか。
それに、前に一緒に見た花の名前と特徴を解説してくれて、それが気に入って帰って辞典で調べようとしたら全く見つからず結局まったく違う名前だったときもある。

本当にそんなつもりなく適当なことを言ってるだけなのかもしれない。そんな気もしてきた。
ずっと一緒にいても相変わらず掴みどころがない。だからどこかへ消えてしまわないようにずっと縛りつけてしまいたくなる。こんなことはとても言えないが。

「でも、鎖月に言いたい嘘って何もないや」
「だろうな」

 咲々牙には嘘だからという名目で言えることなんてなさそうだからな。

「……もしかして今鎖月に好きって言ったら嘘だと思われてしまうかな?」

ふと気づいたのかわざとらしいほどに悲しげな声で言う。そして口元を長い袖で覆われた手で隠す。

この人は、何か失言をしたと思ったときそんな仕草をする癖がある。そんなことしたって、ごまかせないのに。……愛らしいだけで。

「思わないって」

「ほんと? 好きだよ鎖月」

そう言うと目を細めて微笑んで、オレの頬を撫でてくる。その手は優しすぎてくすぐったい。

「まったくもう。すぐ口説いてくるんだから……」

照れ隠しについこう言ってしまう。照れ隠しなことも咲々牙にはきっと丸わかりだろう。

オレの頬を撫ぜて笑ったその顔は、何かを待ち望むように瞳を閉じている。

望まれていることは言われずともわかる。だからその通りにしてやる。

「…………ん」

唇を重ねればすぐにこちらの口内に舌が侵入してくる。待っているかと思えば積極的なんだから。こうなってしまうとすっかり咲々牙のペースで、されるがままだ。
息をするのも忘れて舌を絡めて互いを貪り合う。この行為のせいなのか酸素が足りなくなっただけなのか、ふわふわして気持ちがいい。

「っふあ……、咲々牙、すき」
「ふふ、私もだよ」

オレと違って余裕そうなのが少し悔しい。でもそんな咲々牙にめちゃくちゃにされるのが好きなのも事実だ。考えただけで体の内側がじわりと熱くなる。

「……あのさ、今日は」
「なあに?」
「…………あの、咲々牙に、して、ほしくて」
「それは嘘?それとも本当?」
「言わせるなよ、ばか……。咲々牙のいじわる」
「ふふふ、鎖月が可愛いからつい、ね。いいよ、たくさんしようね」

そうやって微笑む顔はさっきよりもずっと妖しく綺麗で、彼の嗜虐心がちらりと見えるような気がした。

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