深海棲

もう二度と触れることのできない懐かしいもの、輝かしいもの、美しいものが水の底に沈んでいた

うんと遠い水底にあるはずなのに水面の反射がきらきらして、眩しくて手の届くところにあるように錯覚させる
だからひとは引きずり込まれる

今となっては本当にそれが自分の懐かしんだ記憶だったのかもわからない

死者の魂を洗い流した記憶の川が滴った暗い海にそれらは棲んでいた
人が生まれるより前から存在した名前を持たない無垢なものたちは人の記憶を啜り、人のカタチを成し郷愁の異形となった

海に近づいてはいけない
それらに魅入られてしまうから