ぼんやりと日が沈んだ窓の外を眺めていた。最近は日が伸びてきたなあとか、そんなことを思いながら深い青に染まった空を見る。
そうしている俺のそばへ音もなく近づいてきたささげは、ぴたりと背中にくっつくとやがて俺の胸をふにふにと揉みはじめる。
最近の咲々牙は気がつくと背後にいて俺のことを触ってくる。そういう流行りなのか?
別に減るものではないが、後ろからだと咲々牙に一方的に主導権を握られっぱなしでなんだか悔しいような、そんな気がする。
それだけじゃなく、単純に気恥ずかしい。咲々牙は純粋に触ることを楽しんでるだけで、なんというか、こう、いやらしい目線で見てるつもりはないんだろうけど……。
「……触っても楽しくないだろ」
「そうかな? すごく触り心地がいいよ。もちもちしてる」
「女の人みたいな体じゃないし……」
「鎖月が自分で思っているより鎖月は魅力的だよ?」
そう言いながらも胸元をまさぐる手は止まることを知らない。言うまでもないが、自分では特別触り心地がよいと思ったことはない。誰が見ても魅力的なのはむしろ咲々牙のほうだし……。
「咲々牙ばっかりいつも、ずるいと思わないか?」
「そうかなぁ。 だって鎖月が可愛いんだもの」
いたずらっぽく笑う咲々牙。……されるがままはやっぱり悔しい。今日は頑張って反撃してみることにした。
絡んでくる手から抜け出てサッと後ろに振り返る。そして目の前の薄い胸板を揉みしだいてやるつもり……だったが、華奢な体に思わず遠慮してしまう。結局そっと手のひらが触れた程度になってしまった。
外見通りに細くて繊細な体。布越しで触れているだけでも皮膚の薄さを感じられるような気がした。
「ゃん、鎖月のえっちぃ♡」
「ど、どこが……!? まだそういう感じのじゃないだろ……!」
「ううーん? まだ、ってことはこれからそういう感じになるのかな」
墓穴を掘ったらしい。ここで引き下がっては負けだろう。恥ずかしさはこらえて、触れる手は離さないようにする。冷静になったら負けだ。恥ずかしすぎるから。
「そんなこと言ってると本気にするぞ……」
「わたしはいつだって本気だよ」
「……ばか」
咲々牙の薄い胸はとてもじゃないが揉むことなんてできない。物理的な問題ではなく、壊れてしまいそうで怖いからだ。
結局仕返しになっているんだかなっていないんだかわからないが、そっとなでまわし続けていると咲々牙はわずかに頬を上気させて身を委ねてくる。
「わたしね、今でも覚えてるよ」
「……うん?」
「はじめてのとき、鎖月に胸触られてそれだけで気持ちよくなっちゃったこと。ずっと覚えてる」
「……! あ、あれはその、どうしていいのかよくわからなくて、その」
「ふふ、そんなに優しくされるとくすぐったいね」
「ね、もっとぎゅうっと触っておくれよ。鎖月のこと、もっと感じさせて」
鏡を見なくても自分の顔が真っ赤なのがわかる。いたずらにはいたずらで、なんて考えていた仕返しが失敗しているのは明白だった。
どうやら今日も咲々牙には勝てないらしかった。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます