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7.朔 【表】

窓辺の花瓶の水を今日も入れ替える。さした花はもう枯れかかっていた。最近は摘みに行くことも減ってしまったから無理もない。そのすぐそばのベッドで横たわるのはオレの愛しい人。目を閉じて静かに呼吸をしていると生を感じないくらいだ。だけどわずかに上下…

6.翳

ちいさな白い花が咲き乱れる中に私と鎖月二人だけ。風が吹けばその葉がザアとさんざめいて私たちの髪を揺らす。いつしか花は星の明かりを受けて淡く光りを灯して、小さな光と花弁が風に舞う。そんな幻想的な景色に言葉を失くして二人でただ立ち尽くしていた。…

5.儀 【裏】

異変を感じたのは、杯に注がれたあの人の血を飲み干してすぐのことだった。全身が焼けるように熱い。薄暗いはずの地下も燭台の光が異常に眩しくて、湿った匂いがやたら強く感じられた。体の感覚全部がうるさくて、気持ちが悪い。立っていられない。大丈夫だと…

5.儀 【表】

窓の外の景色からは色彩が失われ、風が吹くたび枯れ木が淋しく枝を揺らしていた。この季節はどうにも好きになれない。四季の彩りを感じるようになったのはあの子と暮らし始めてからだけれども。それでもやはり過ぎゆく時間に焦燥を感じて、落ち着かなくなって…

4.戯 【裏】

「咲々牙?寝ちゃったの、か?」オレの上にのしかかったまま、穏やかな寝息をたてていた。まったくもう、これじゃ動けないじゃないか。まだ触れられた感触が忘れられないでいるオレの気も知らずに一人だけ寝るなんて、ずるい。でも、咲々牙はそんな人だってよ…

4.戯 【表】

すっかり日も落ちて、窓から細い弧を描く月が覗く頃。「ねえ、さつきの思う『えっちなこと』ってどのくらいのことなの?」「し、知らないっ!」いつかの避けられていた原因のことを今日もさつきに問うてみる。しかしながら、答えてくれるつもりはないみたい。…

想い出星をさがして

いつか昔に聞いたおとぎ話。年の終わりには人々の思い出からこぼれ落ちた星が降り、その星に祈れば願いが叶う、と。誰に伝えられたかもわかりませんが、わたしはそれを知っていました。◆◆◆無数の本の山と数本のペンと白紙のノートが置かれた机。その中に一…

ひとがこいにおちるおと-B

はじめはなんか見てくるやつがいたからさぁ、少しからかってやろうと思ったんだけど。 なんかね、少しつけて行ったら勝手におかしくなっちゃったんだよねえ。まあ俺に興味持っちゃう時点でどうしようもないタイプとは思ってたけどさー、まさか勝手に幻覚見て…

ひとがこいにおちるおと-A

それきりそれを見ることはもうない、というのが普通なはずなのに。それなのに、喫茶店を出て友人を合流してからもあの赤い影がチラチラとつきまとっているような気がしてしょうがなかった。ガラスの映り込み、噴水の水の反射、人混みの中に混ざる赤い髪。本当…

3.欺

さつきと暮らすようになって、すべてがうまく行っていると思っていた。外を歩けばすべてが鮮やかで新鮮に思えて。幾百も眺めてきた季節の移り変わりだってまったく新しいことのようにさえ感じた。あの子が隣にいるだけで、笑ってくれているだけで、こんなにも…

2.疑

半分の月が窓から顔を覗かせる頃、涼しい風がカーテンをゆらし吹き抜けていく。そんな景色を眺めて艷やかな黒髪のあの人は微笑んだ。あの日、両親を亡くしてからオレはあの人――咲々牙と一緒に暮らしている。遺体は見ないほうがいい、とすぐにあの人が埋葬し…

白の灰

古ぼけた埃塗れの狭い部屋。薄闇の中に■■と□□だけ。薄汚れてなお鈍い光を放つ柔らかな絹のような髪。病的なまでに白い肌。そのまぶたは閉ざされ、■■を見ることはない。暗闇の中でもその白はより一層際立って見えた。壁にもたれた□□は動かないまま。生…